天国は春、

祖母が亡くなって、今日で1年が経った。入院中だったため死に目にも会えず、葬式にも、火葬にも参加できなかった。母親から送られてきた祖母の安らかな顔が、もうどこにもいないという事実を突きつけた。

 

眠る前は、必ず祖母のことを思い出す。両親が私を放ってギャンブルに興じていた時、祖母は私の面倒を見てくれた。幼少期は両親との思い出より、祖母との思い出の方が色濃く残っている。大きく骨ばった手で頭を撫でてくれた。朝は祖父の仏壇に向かって、小さく話しかけていた。丸まった小さな背中は、今でも鮮明に思い出す。

 

一人になった時、どうしようもない寂しさに襲われる。重苦しい寂しさは上手く言葉にできず、祖母に会いたい気持ちだけが募る。天国は、ずっと春みたいな気候なんだろうか。やわらかい風が吹いて、花の甘い香りがそこら中に漂っているのかな。祖母は花が好きだったから、そうだと嬉しい。

 

また一年、祖母を思わない日はないと思う。眠る前に寂しくなって、からっぽのまま眠って、また一日が始まって。この寂しさに慣れる日はくるんだろうか。こなくてもいいけど、いつか心が張り裂けてしまいそうで、すこし怖い。

 

上京してすぐ、祖母は私に会いたいといって、よくぽろぽろ泣いていたらしい。そのことを思い出すと、本当に胸が締め付けられる。私も会いたかったけれど、でもいつか会えるだろうと、まだ甘えていた。会えなかった。つぎに会えたのは、触れたのは、祖母の小さくて軽い骨だった。

 

冬の日の出とともに、祖母は空へと旅立った。その日の朝日の綺麗さは、いまでも覚えている。顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら、じっと空を見たから。

 

あなたに会いたいから、何度でも思うし、何度でも言う。夢でもいいから、会いにきて。

6:05

祖母が亡くなった。今日の朝早い時間に、魂だけそっと身体から出ていって、空に昇っていってしまった。

 

私はいま入院中で、祖母の顔にも骨にも触れることはできない。火葬されている間にのぼる煙も、見ることはできない。今すぐにでも祖母に会いに行って、わんわんと大声をあげて泣きたい。今は一人、祖母のことを思い出しては声を押し殺して、泣いている。

 

本当に真面目で優しい人だった。小さいとき、お気に入りのおもちゃを少し高い場所から落として泣いていた時、祖母はそこから降りておもちゃを拾ってくれた。眠れないときは子守唄を、私が好きだといったお菓子は、祖母の家に行くたびにあった。

 

2年半前、東京に行くことを祖母に告げずに飛び出してしまった。実家が嫌で飛び出して、転がり込むような形で恋人と同棲した。祖母は体調が悪くなっていって、入院した。私の母や伯父が見舞いに行くたびに、私の名前を呼んでいたらしい。また、どんどんと体調が悪くなって、声も出せなくなった。先月、実家に帰った。一度、祖母のお見舞いに行こうと、伯父が連れて行ってくれた。面会時間前で会えませんと、警備員に言われて「私が退院したら、会えるでしょ。次はちゃんと時間把握しておかないとね」って、伯父と会話したのを覚えている。会えずに、さよならしてしまった。

 

私は、祖母になにもできなかった。なんでももらうばかりで、何一つとして返すことができなかった。もっと何かできたはずだと、今更考えてもしょうがないけれど、それでもやっぱり考えてしまう。いつでも祖母を思い出せるように、もっと触れておいたらよかった。祖母は照れ屋で、抱きしめられることを恥ずかしがったけれど、たくさん抱きしめていればよかった。

 

毎朝、祖父の仏壇にお参りをしていた小さな祖母の背中。「今日も一日見守っていてください」と小さく言っていたのを覚えている。もう天国で、祖父に会えているだろうか。真面目で優しい祖母のことだったから、きっと道に迷わずに会えただろうと思う。

 

天国はどうですか。あたたかいですか。おばあちゃんの好きな食べ物は、たくさんありますか。会いたい人には、もう会えましたか。私は今日、何をしていてもおばあちゃんのことを思い出して、泣いてしまいます。会いに行けなくて、ごめんなさい。会っていない間も、私のことを気にかけてくれて本当にありがとう。偶然にも、今日病院内で流れた子守唄に、おばあちゃんの歌ってくれた子守唄を重ねて、声をあげて泣いてしまいました。おばあちゃんからもらった愛情を、上手く返すことができなくて本当にごめんなさい。本当に本当に大好きでした。これからも、それは変わりません。

 

私はまだ、現実味がありません。退院したら、会いに行って「痩せたね」なんて軽口を言ってくれる気がずっとしています。甘いものが好きだったから、二人でケーキでもつついて話したいよ。何も言わずに、急にいなくなるなんて、おばあちゃんらしくないよ。

 

退院したら、その足で真っ先に会いに行くね。おばあちゃんの好きな食べ物なんでも買っていくから、待ってて。こんなこと書いてないで、真面目に仕事しなさいって怒られそうだから、ここらへんで終わります。

 

長い長い闘病生活、本当にお疲れ様でした。天国では思う存分好きなことをして、ゆっくり休んでください。気が向いたら、私に会いにきて。